中盤からの加速度に圧倒される『ゴーンガール』
「セブン」「ファイトクラブ」で一世を風靡した、デイビット・フィンチャー監督作。
5年目の結婚記念日に突如として失踪した妻・エイミー。夫・ニックは妻の両親と彼女の捜索を開始するも、冷め切った夫婦仲が次第にメディアに露見するにつれ
世間はニックがエイミーを殺したのではと疑い始める――
フィンチャー作品といえば、ファイトクラブやセブンといった最後にあっと言わせるような演出が得意な監督です。またパニックルーム等、追いつめられる・切迫した演出をうまく描くのが上手いとも言えます。
そんな彼の映画のうち、数々の名作を抑え興行収入№1に輝いたのが2014年公開の映画「ゴーン・ガール」です。
148分と長い映画ながらも、それを感じさせないストーリーのテンポと、どう転ぶかわからない結末から時間の経つのを忘れさせる1作です。
主演は夫役にベン・アフレック、妻役にロザムンド・パイク。ロザムンド・パイクは、サイモン・ペグのコメディ映画「ワールドエンド」に出演していましたが、その時とは打って変わって情熱的かつ狂気的な演技を行い、15年のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされています。
---------ここからネタバレアリ---------
この映画の構成は、夫サイドと妻サイドが交互に入れ替わりながら進んでいきます。そして中盤あたりで、失踪した妻が実は生きていて、不誠実な夫に制裁を下すために嘘の状況証拠をでっち上げたことが暴露されます。
次第に追いつめられていく夫と、それをあざ笑うかのように逃走する妻。
しかしながら妻に降りかかったトラブルにより、状況は次第に変わっていきます。
注目すべきは主演女優のロザムンド・パイクの演技でしょう。
次々に表情を変え、良き妻にも、悪女にも、蠱惑的な女性にも変化する彼女の演技には、恐怖と狂気を感じざるを得ません。
彼女の演じたエイミーという女性は、架空の人気童話「アメイジング・エイミー」のモデルとして、小さいころから物語の自分と、本当の自分を比較されていたという描写があります。また彼女が失踪した際、彼女の両親は「アメイジング・エイミーを探してくれ」と言わんばかりに、彼女本人と物語の中の彼女を同一視するような演説を行います。
こうした幼少時代を送って行く中で、彼女の中で何事も完璧なアメイジング・エイミー像が暴走を始めていったのではないでしょうか。彼女は付き合った恋人や夫ニックをコントロールすることで、常に自分が理想とする環境を築こうとしていきました。
そして、それが築けないと分かると本事件のような容赦ない制裁を与えようとします。そこには押し付けられた完璧な女性像であるアメイジング・エイミーに対抗しつつも、それに憧れ、近づこうとする狂気的な意思を感じます。
結果として彼女は再び理想の夫を取り戻し、全米のメディアから理想の夫婦像と称されるほど、彼女にとって理想の環境を得ることになります。夫・ニックは狂気的な彼女におびえながら、生まれてくる子供を守る責任のため、恐れながらも彼女と添い遂げることを誓います。
世間からは羨まれながらも、実態は泥沼のような夫婦。
物語はニックが胸の中で眠る妻に、「妻が何を考えているか分からない」と思考するシーンで終わります。
でもその疑問って、男なら誰でも思う疑問なんじゃないでしょうか。
実はあなたの妻もエイミーかもしれない――
そんな恐怖が背筋を伝う、2014年屈指の名作「ゴーンガール」でした。