(書評)世界の「魔」の風俗史を学ぶ上でベストの一冊「魔の世界」(著者:那谷 敏郞)
ホラーや伝記好きであれば、必読の一冊。
Ⅰ.あらすじ
「怖いもの見たさ」という言葉があるし、「地獄極楽」絵図でも必ず地獄の方に迫力がある。幽鬼妖怪、総称して魔は人間を惹きつける。人間が創りだすのも、善神より魔神のほうが得意だ。そうした、変化に富む魔たちが世に満ちている。彼ら魔たちの風貌、性格、通力を知ることによってこそ、彼らを生んだ各風土、各民族、各社会の特徴が露わになってくる。(本誌表紙より引用)
Ⅱ.紀行作家の書く「魔」
冒頭に申し上げれば、もし貴方がホラーや伝記に少しでも興味があれば、また世界の風俗や郷土史に興味があれば、この一冊はきっと興味を引く一冊になるに違いないと保証できます。
著者の那谷敏郞氏は、紀行作家として有名な作家らしく、著書にはネパールやスリランカ、トルコなどの旅行記が目立ちます。
そうした著作の中で異彩を放っているのが、本書「魔の世界」です。
Ⅲ.世界を翔ける「魔」
あらすじにもある通り、ここでいう「魔」とは幽霊や妖怪、妖精、はたまた呪いなどの超科学的なもの全般をさしています。本書ではこうした「魔」に関して、広い知見からアプローチを行なっています。
こと魔術一つに関しても、スリランカやネパールの話から、西洋の魔女、錬金術、錬丹術と東西南北世界各地を縦断し、各地での「魔術」のあり様に関して述べています。また各地の小人伝説や妖精、巨人伝説など、どこか似通っていながらも土地土地に特徴のある「魔」という存在が、どの様な背景で成立したのか、その解説はまだ「魔」が「魔」であったころの原生的な「人間としての有り様」を感じます。
Ⅳ.多くの「魔」
本書の良い点として、たいへん多くの「魔」を取り扱っているところがあります。
数行で終わる様な解説や、解説のないもの(特に中国系)もありますが、本当に様々な「魔」に触れることができます。また更に良いのが、割と多くの「魔」に関して出典元も記載しているところです。
多くの「魔」に触れることができ、かつ出典元もきちんと掲載しているので、本書は風土記を学ぶのにもってこいの導入本だと言えます。この本をベースとし、更に気になるところは出典元を調べ学ぶことで、より各地の風土や伝奇を学ぶことができるでしょう。
Ⅴ.総評
「ぼぎわんが、くる」の中で、ぼぎわんの語源である「ブギーマン」を解説する下りがとても面白かったのですが、そうした伝奇的な風俗史を学ぶ上で非常に役に立つ一冊だと思います。
もちろんこれだけでも必要十分な知識を得ることは出来ますし、繰り返し読んでも飽きのこない内容となっています。
ホラー・伝奇作品の理解を深め、より一層「魔」に近づきたい方には、必読の一冊と言えるでしょう。
(100書評チャレンジ:45/100冊)