雨の日の大人たちは

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(書評)夜は永遠? 歩けよ乙女「夜行」(著者:森見 登美彦)

 森見登美彦の印象が変わった。

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Ⅰ.あらすじ

「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」

私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。

 怪談×青春×ファンタジー、かつてない物語。(amazonより)

 

Ⅱ.「四畳半神話大系」「夜は短し歩けよ乙女」

 森見登美彦はコミカルな作風の小説家である。

 というのが、私が以前から著者の作品に抱いていたイメージでした。

 とはいえ、実際に森見登美彦作品を読んだことは実は一度もありません。ただ、森見登美彦の代表作である「四畳半神話大系」のアニメを昔見たことがあり、その内容がとても印象的だったからです。

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 他にも「夜は短し歩けよ乙女」「有頂天家族」等、著者の有名な作品にはコミカルな作品や親しみ易い作品(主に伝聞やあらすじだけ見ての感想ですが)が多く、そういう分野が得意な作家さんだと思っていました。

 そう、本作を読むまでは・・・

 

Ⅲ.もう一つの森見登美彦ワールド

 本作「夜行」を読んで感じたのが、上記にて思っていた森見登美彦という作家の作品イメージと全く違うということでした。

 本の紹介文には「怪談×青春×ファンタジー」とありますが、どれでもあって、どれでもないような気がします。

 では、この作品はどの様なジャンルの作品か、判断するのに非常に苦慮します。怪談要素が強いのですが、それには囚われない、ファンタジーやヒューマンドラマが混じった独自の森見登美彦ワールドなのだと思います。

 もしかして、私の知らない森見作品はこういう作風なのかと調べてみると、森見登美彦氏のインタビューで面白いことが書かれていました。

pdmagazine.jp

——作家10周年記念作品の締めくくりとなる『夜行』ですが、森見さんの作家としての原点から遡ってみると、この小説の立ち位置はどんなところにあるのでしょうか?

 

森見:実は、デビュー前に自分が書きたいと思っていたのは『夜行』のような小説だったんです。ただ、いざ『太陽の塔』でデビューして、『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』を書く頃になると、「自分には明朗愉快な小説が向いている」ということを発見したんですね。とはいえど、勢いのある小説だけでは書いていてしんどくなるので、静かな路線も書きたくなるのですが、それもまた書くのが大変で。要はどっちもしんどい(笑) 小説を書くのは楽しいけども、まあ、しんどい作業です。(上記記事より引用)

 なんと、元々は本作の様な作風が好きな作家さんだったんですね。

 ちなみに「きつねのはなし」という小説が、「夜行」と同じタイプの小説らしいです。

きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)

 

 

 

Ⅳ.謎解かれないストーリー

 

 続いてはストーリーに関して述べていきます。

 本作は5人の登場人物が、それぞれ体験した旅行先での奇妙な話がメインとなります。その話で共通するのは10年前に失踪した「長谷川さん」と、岸田という画家が書いた「夜行」という絵画が登場することです。

 5人がそれぞれの旅行話を終えた後、狂言回しの大橋が体験する話で本作は締めくくられるのですが、多くの謎を残したまま本作は終わります。

 これが好きか嫌いかは個人により好みが分かれるところだと思いますが、私は好きな部類です。そもそも「幽霊の正体見たり枯れ尾花」と言われる様に、怪談話は全てわかってしまうと途端に恐怖が薄れるものですから。

 多くのホラー小説・怪談を読んできましたが、5つの話のうち、失踪した妻を探す話の「尾道」と、老婆に死相が出ていると予告される「奥飛騨」は怪談としてクオリティ高いと感じます。描写としては「怖い」というより「不安になる」作風で、後半の虚実入り交ざった様な展開は、岩城裕明の「牛家」という作品を彷彿とさせます。 

牛家 (角川ホラー文庫)

牛家 (角川ホラー文庫)

 

 ただ、全体的に各話にて謎を残しすぎているとも感じました。

 謎を謎で残すのは良いと思うのですが、短編5つ毎に謎が残っており、いささか渋滞状況になっている感が否めません。とはいえ、最後の大橋の話で革新的な謎解きはしているので、そこから推察すると自ずと「こうだろう」という答えは出るのですが、やはりモヤっとした気持ちが残るのは否めません。

 

Ⅴ.総評

 思っても見ない作家さんが、思ってもみない作品を書いていたので、強い驚きを受けました。とても面白い小説であり、下手な怪談作家よりも気迫迫る恐怖描写だと思います。

 が、「夜行」というタイトルが、どうしても恒川光太郎の「夜市」「夜行の冬」を思い出させるのが残念。個人的には、両者を比べてしまうと、幻想的な恒川光太郎ワールドの作品の方が、「夜」というテーマに深く理解がある様に思えてしまいます。

  なんだか評価の難しい作品ですが、森見登美彦のイメージを覆す、読む価値のある一冊であると思いました。

 秋の「夜長」にぜひ読んでほしい一冊だと思います。

(100書評チャレンジ:44/100冊)

 

夜行 (小学館文庫)

夜行 (小学館文庫)