雨の日の大人たちは

「100食」「100本」「100冊」「100記事」をテーマに、ダウナーなアラサーが日記書いています。

(書評)サラリーマンの失敗が思いもよらぬ展開に「許されようとは思いません」(著者:芦沢 央)

 その気持ち、凄くわかる。

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Ⅰ.あらすじ

「これでおまえも一人前だな」入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。だが売上伝票を見返して全身が強張る。本来の注文の11倍もの誤受注をしていた―。躍進中の子役とその祖母、凄惨な運命を作品に刻む画家、姉の逮捕に混乱する主婦、祖母の納骨のため寒村を訪れた青年。人の心に潜む闇を巧緻なミステリーに昇華させた5編。(BOOKデータベースより)

 

Ⅱ.ミステリー作家芦沢央のミステリー短編

 「火のないところに煙は」に続き、芦沢央さんの作品書評です。

 この「許されようとも思いません」も、「火のないところに煙は」と同じく短編集となっています。が、「火のない〜」と違いこちらは夫々が独立している、一般的な短編集ですね。

 ホラー作品である「火のない〜」に関しては不慣れな面が目立ちましたが、元々芦沢央はミステリ作家ですので、此方が彼女のそもそもの専門分野なのでしょう。全体として、「火のない〜」よりもクオリティが高く感じました。

 

Ⅲ.良かった点ー共感できる主人公

 全体的に共感できる主人公が多かったです。

 ミスをしてそれを何とか隠し通そうとするサラリーマンや、育児に疲弊しきった主婦、娘のためをと思い奮闘する祖母等、キャラクターのはっきりした登場人物が多かったのが好印象でした。

 特に2本目の「目撃者はいなかった」の失敗を隠そうとするサラリーマンは、他人事には思えません。好成績を収め、先輩にも褒められた後、それが自分の誤発注によるものだと気づくーー もし自分だったらと思うと、ゾクっとします。

 そしてそのミスをなんとか隠そうとして事件に巻き込まれてしまうのですが、自業自得と言えない何かがそこにはあるのが良いですね。この作品に関して言えば、中編以上のボリュームで読んでみたかったです。

 

Ⅳ.悪かった点ーオチが読める

 全体的に読んでください、というような感じのオチが多かったのが残念。

 「絵の中の男」「許されようとは思いません」「姉のように」の3作に関しては、ほぼほぼ明確にオチの伏線が明示されているんで、「あ、多分こういうオチなんだろうな」というのが中盤でわかってしまいます。

 唯一オチ予測が外れたのは「ありがとう、ばあば」でしたが、騙されたというよりは外れた、という感じ。

 孫娘を子役として成功させるために奮闘する祖母が主人公なのですが、物語序盤で孫娘に殺されそうになります。その理由は、自分が無理に孫娘に子役として成功するよう強いてきたからだと終盤に気づくのですが、実は別の理由がーーというストーリーなのですが、ストーリー中に「娘が嫌がっている様子」というのがあまり無いので、ミスリードが上手くいっていないように感じます。

 他も似たような感じで、オチが弱いのが難点ですね。

 

Ⅴ.総評

 2本目の「目撃者はいなかった」は面白かったのですが、他の作品がパッとしなかったな、というのが総評。その2本目も、凄く面白い、というよりかは星3.5くらいの面白さかな、って感じでした。

 あと、やっぱりミステリのキモは「オチ」ですね。オチが弱いとどうしても作品全体が弱く感じてしまいます。どのような意外性のあるオチに持っていくのかが結局ミステリの評価であり、作家の腕だと感じる、そんな作品でした。

(100書評チャレンジ:44/100冊)

 

許されようとは思いません (新潮文庫)

許されようとは思いません (新潮文庫)