(書評)比嘉シリーズじゃない短編集「ひとんち」(著者:澤村 伊智)
比嘉じゃない澤村作品。
Ⅰ.比嘉じゃない澤村作品
澤村伊智といえば、デビュー作「ぼぎわんが、来る」でもおなじみの比嘉姉妹が登場する比嘉シリーズが代表作です。この比嘉シリーズは、まぁ当たり前ですが、角川レーベルでしか発行していません。
前回レビューした「などらきの首」は、その比嘉姉妹やシリーズ登場人物が登場する短編集でした。
今回は光文社からの出版とあり、比嘉姉妹とは全く関係ない短編集となっています。
Ⅱ.宝玉混在
前回のレビューで、澤村伊智は短編集苦手なのか、と書きました。とはいえ、短編集は1作目なのでまだ評価を下すには早いでしょう。2作目、特に人気のシリーズから離れた作品にこそ、作者の力量が現れるのではないでしょうか。
ということで、1作ずつ感想を述べたいと思います。
ひとんち
1本目から微妙な作品。
簡単に言えば、とてもありがちなサイコスリラー。ありがちでも何かしら捻りがあれば良いのだけど、特に捻りもない。
夢の行き先
本短編集のナンバー1。
途中からの捻りが効いていて、読み進めるのがワクワクする作品。オチはちょっと弱いけど、澤村伊智らしさが出ていると思う。
闇の花園
本短編集のワースト1。
ひとんちもそうだけど、こちらも捻りがない。このオチは読んでくれ、と言わんばかりなので更に捻るのかと思ったら、どストレートできた。今時このオチで許されるのか?
ありふれた映像
面白いっちゃー面白いけど、佳作。
「そわっ」としたホラーとでも言うのだろうか。日常に潜むちょっとした怪異を描いた作品だが、日常すぎてどうにも。
宮本くんの手
独創的な感じだけど、今ひとつ。
どう言う風に展開するかと思ったら、そういう風に展開するかと意表をつかれる。でも意表をつかれるんだけど、つかれただけ、という感じ。
シュマシラ
本短編集ナンバー1の夢の行き先に次いで面白い。
最初のコレクションの話から、そういう展開でストーリーが進むのか、と感心する。伝記的な考察も面白く、ぼぎわんを読んだ時の様なワクワク感を覚えた。ただ、オチは微妙。
死神
多分本作で一番怖い。
得体の知れない恐怖を感じる作品。ずぶずぶとした、黒く粘っこい恐怖を感じる。ただ全体としてあっさりと終わっている。中編くらいのボリュームで読んでみたい作品。
よそんち
なんぞこれ、本作でワースト2の作品。
SFなのだろうか、いやまぁSFなんだろう。うーん、なんというか尻切れトンボな作品。
Ⅲ.良いのか悪いのか
良くも悪くも宝玉混在という印象。
短編集は得てしてそうなりやすいのだけれど、本作は宝と玉の差が激しく感じる。「夢の行き先」や「シュマシラ」は良い、もっといえば「死神」もかなり出来が良いが、「じぶんち」「闇の花園」は正直商業誌レベルではないと思う。
もうちょっと安定した作品を量産できると、安定して単行本も買える作家になるのだが…。次回作に期待。
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