しかし、絶対に許さない。
Ⅰ.あらすじ
J・J・エイブラムスが製作を務めた最新作。ある日、目を覚ますと、自分がシェルター
の中にいることに気が付いた女性・ミシェル。その日から、「きみを救うためにここへ連れてきた」 と話す見知らぬ男・ハワードと、シェルターを作った男エメットとの共同生活が始まる。
Ⅱ.クローバーフィールドっつったらアレだろ!
JJエイブラムスといえば、60~70点くらいの映画を作るのが得意な監督、というのは以前の記事で何度か触れました。
まぁエイブラムスという監督は、「傑作でも駄作でもない」作品を制作・プロデュースするのが上手い監督です。決して落第点は取らないけど、評価されるような結果も出さない。正に日本の大学生の成績のような、平均的な作品を作るのに長けています。
しかし、そんな彼の飛ばしたオリジナルのスマッシュヒットが「クローバーフィールド/HAKAISHA」。
クローバーフィールドは誰もが推す名作、という訳ではありませんが、クリーチャー映画・パニック映画好きの中では割と好意的に受け入られられており、何より私が大好きな映画の一つであります。
POV映画として、これほど素晴らしい題材があるでしょうか。超現実的な状況に陥った人々の視点から、その事件を垣間見る、というPOV映画の王道的な手法を、余すことない予算で作成されたこの作品は、ある意味怪獣(KAIJU)映画の中でも特異な存在であると言えるでしょう。
そんな彼が、スターウォーズに続いて制作プロデュースしたのが、「10 クローバーフィールド レーン」です。
Ⅲ.これはね、鳥の映画ですよ
最初に言っちゃうとね、これは鳥の映画なんですよ。ほら、日本の河川によくいる奴。鶴に似てるんだけど、ちょっと小ぶりで、頭の上が赤くも無くて――
そう、詐欺(サギ)映画です。
いやー、良くない、良くないよJJエイブラムスさん。詐欺は良くない。このお話、「クローバーフィールド/HAKAISHA」とは縁もゆかりもない全く持って別のお話です。公開前にエイブラムスは、「これは前作と精神的につながった話だ」とかフザケた事を言っていたようですが、全く違います。
そもそも、これは別の脚本家が作ったオリジナル作品なのです。それに、興行的な成功をもくろんだエイブラムスが「クローバーフィールド」の名前を付けただけなのです。ぐぬぬ、心優しいクローバーフィールドファンの期待を踏みにじるとは、許すまじエイブラムス。
Ⅳ.とはいえ作品は
ということで、クローバーフィールドファンの期待を完全に裏切った本作品ですが、単品で見るとそこまで悪い作品ではありません。まぁ簡単に言えば、シャマランの「サイン」と、「シャイニング」を足しで二で割ったような、そんな作品です。単体で見れば、ジョングッドマンの異様な演技に引き込まれるでしょう。
果たしてこのジョングッドマン演じる、「ハワード」が言うことが正しいのかどうか、というのが映画のキーとなっていきます。突如地下室に幽閉され、「地球外生命体が地球に侵略を行い、外の世界は汚染物質で充満している。外に出たら危ない」といわれた主人公ミシェルが、限定的に与えられる情報の中でハワードを信じるか、信じないかで揺れます。
果たしてミシェルはどのような決断を下すのか、シェルターから出ていくのか、出ていかないのか、というのが本作のストーリーラインです。
Ⅴ-1.ネタばれと考察
さて、ここからネタばれです。
結局のところ、ハワードの言っていた「地球外生命体が地球に侵略を行い、外の世界は汚染物質で充満している。外に出たら危ない」というのは正しく、外に出たミシェルは地球外生命体に襲われますが、辛くも撃退することが出来ました。
そこで疑問が残るのが、「ハワードは善人だったのか、悪人だったのか」です。ミシェルがハワードを訝しむ要因として、「自分の車に衝突した犯人がハワードだったこと」「行方不明になった少女との写真があったこと」「少女の残したと思われるメッセージとピアスがあったこと」の3点です。
では、それぞれのケースに倣って考察をしていきましょう。
①ハワードが善人だった説
ハワードは善人であり、本当に罪悪感からミシェルをかくまっただけだった、説。これに関しては、実際にハワードが警告していた内容が正しかったことが挙げられます。ミシェルの乗る車に衝突したのは、本人が話したように襲撃に気付いて気が動転したから。ミシェルを匿ったのは、その罪悪感から。
エメットを殺したのも、「自分に隠して、武器を製造していた」という理由を考えれば分からなくもありません。
②ハワードは悪人だった説。
ハワードは悪人であり、少女誘拐殺人犯であった説。ミシェルがシェルターの中で見つけた少女は、彼の娘ではなく誘拐してきた子であった。ミシェルを誘拐したのもその少女と同じように扱うためである。
この2つを考察すると、結局「ハワードは少女誘拐犯だったのか」がキーになってきます。ミシェルを匿ったのは、少女誘拐犯という顔を覗かせたからなのか、それとも罪悪感からの行為だったのか、果たしてどちらなのかが問題になってきます。
Ⅴ-2.ハワードは少女誘拐犯である
私としては、ハワードは確かに少女誘拐犯だったと推察します。理由としては確かな証拠(イヤリング、HELPの文字、Tシャツ等)があったこと。そして、連想ゲームで明らかになったハワードの性癖です。
映画中盤で、3人で連想ゲームを行うシーンがあります。エメットが連想ゲームのヒントとして「ミシェルの事」というと、ハワードは「少女」「女の子」等の言葉を出します(正解は女性(woman)です)。ミシェルは決してティーンエイジャーではありませんので、ミシェルをさして「少女」「女の子」と言うのは不可解です。
連想ゲームのようなゲームでは、人々の深層心理、興味というのが表面上に出てくるケースが多々あります。詰まる所、「女性」よりも「少女」「女の子」といった単語が出てくるハワードにはペドフェリア(児童性愛)の気があった、と推察されるでしょう。つまるところ、これが「ハワードは少女誘拐犯だった」という示唆に繋がっているのでは、と考えます。
Ⅴ-3.ミシェルもそうするつもりだった?
答えはyesだと思います。以前誘拐した少女の服を着せた事、エメットとミシェルの接触に激昂したこと等からハワードのミシェルに対する独占欲が見て取れます。またハワードは彼女を匿う際に、「車にあった酒は持ってこれなかった」と話しましたが、実際にはしっかりと回収し、車の中に置いていました。
何故酒を回収していたのに、シェルターに居れなかったのか。それは、ミシェルの少女性を高めたかったからなのではないでしょうか。「お酒」は「大人」が飲むものですから、「少女」には似つかわしくありません。一度ハワードはミシェルに自家製のウォッカを勧めますが、ミシェルは味の悪さから断ります。その際ハワードが妙に上機嫌になるのですが、それはミシェルが今後酒を口にしない、というのが判明したからではないでしょうか。
また、ハワードは「急いでいたからミシェルの車にぶつかった」と話していますが、冒頭のシーンでミシェルがガソリンスタンドで給油を行うシーンに、ハワードの車が登場しています。急いでいる人間が、ガソリンスタンドに立ち寄るでしょうか。
つまり、ハワードは海軍時代に宇宙人の襲来に気付いていた。その為エメットにシェルター制作を依頼した。そして襲来を知った当日、ハワードは故意にミシェルの車をぶつけて彼女を誘拐した。そう、1年・2年以上奴らから隠れなければならない状況において、彼にはパートナーが必要だったから。
というのが、今回の事件の真相ではないかと私は推察します。
Ⅵ.総評
こうした推察する謎を残す方法はエイブラムス制作らしい作品とも言えます。因みにyahoo映画の評判は最悪です。まぁパスタを注文したら焼きそばが出てきたような作品なので、その反応も分からなくないのですが、前作を気にしないで見るとそこそこ面白い、正にエイブラムスの作品です。(焼きそばだって、焼きそばだと思って食べれば美味しいでしょ?)
SF好きよりも、サスペンス好きが好みそうな一作。シャマラン好きならちょっと気にいるかも??