リングや着信アリのような、映像映えしそうな作品。
Ⅰ.あらすじ
新築・格安、都心に位置するという抜群の条件の瀟洒なマンションに移り住んだ哲平一家。問題は何一つないはずだった。ただ一つ、そこが広大な墓地に囲まれていたことを除けば…。やがて、次々と不吉な出来事に襲われ始めた一家がついにむかえた、最悪の事態とは…。復刊が長く待ち望まれた、衝撃と戦慄の名作モダン・ホラー。
Ⅱ.エンタメ色の高い作品
初版は88年と、非常に古い作品。因みに日本ホラーブームの発端となった「リング」が91年出版となるので、それ以前の作品となる。しかしながら読み進めると分かるが、時代の古さを全く感じない。ほぼ30年前の作品であるのにそれを感じさせないのは、ホラーというジャンルの時代を超えた普遍的な面白さを表しているのかもしれない。
本作品は、他のホラー作品に比べ非常にエンタメ色の高い作品といえる。起承転結がはっきりとしており、特に物語のクライマックスではある意味「派手な」「分かりやすい」場面が多く「追い詰められている」とが良く強調されている。
そういう点でいうと、映画の「リング」や「着信アリ」に似ている。追い詰められる一方で、こちらも原因に近付いていく。呪い殺されるのが先か、こちらが原因を究明して呪いを解くのが先か、といったような駆け引きが読者のページをめくる指を進ませる。
Ⅲ.ホラーのジャンル
ある意味ホラー作品は、小説・映画に問わずある程度形式が決まっている。
①何だかよく分からない世界に迷い込んでしまった、一方的に被害に遭う系のホラー(例:映画「呪怨」や、小説「牛家」)
②呪いや怪談に遭遇した主人公が、それを乗り越えよう(生き残ろう)と奮闘する系のホラー(映画『リング』、小説「ぼぎわんが、くる」等)
③人間の恐怖系や、スプラッタ的なホラー(例:映画「13日の金曜日」、小説「うなぎ鬼」等)
墓地を見下ろす家は、その内②に該当する作品だ。
こういう系の作品は話が単調になったり、他作品と殆ど同じ内容に感じる場面が多い一方で、ある程度安定したクオリティを保っているのが特徴である。ので、「リング」や「ぼぎわんが、くる」「着信アリ」等が好きな人は、おそらくこの作品も好きになるんじゃないかという内容である。
Ⅳ.総評
墓地を見下ろす家は、角川ホラー以外にも様々な出版社から出版されている、息の長い小説である。そんな小説が何故今まで映像化されなかったのか不思議でならないのだが、そこはホラーブームが過ぎ去った昨今の映画業界に期待することは出来ないだろう。
そろそろ暑くなるころだし、夕涼みの一本として楽しめる作品でないだろうか。
(100書評チャレンジ:14/100冊)