完全に狙って書いてますよね、これ。
Ⅰ.あらすじ
11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。誰よりも真っ直ぐで、正しく、凛々しい少女、真辺由宇。あるはずのない出会いは、安定していた僕の高校生活を一変させる。奇妙な島。連続落書き事件。そこに秘められた謎…。僕はどうして、ここにいるのか。彼女はなぜ、ここに来たのか。やがて明かされる真相は、僕らの青春に残酷な現実を突きつける。「階段島」シリーズ、開幕。
Ⅱ.大人向けのラノベ?
新潮社nexという、あのお堅い新潮社が発刊しているラノベブランド。ラインナップを見るとラノベ~一般文芸の中間くらいなのを中心に発刊しているようです。そんな未だマイナーブランドの中で、大学読書人大賞という何とも微妙な賞を受賞したのが本作。最近はそうでもありませんが、一時期本屋の文庫コーナーで平積みにされていたので、表紙は見たことある方も多いのではありませんでしょうか。
私はラノベ嫌いではありません。高校時代は電撃文庫初期の「キノの旅」や「ブギーポップ」読んでたので、所謂読書家さんたちの「ラノベはクソ」という意識はあまりありません(最近のはアレですが)。
ということで、話題作っぽいしまぁ試しに読んでみるかと思ったのが本作品。読んでみると割と読みやすく、変な口調で喋る萌えキャラもいない一方で、しっかりとキャラ立ちはしている。恐らくはこの文庫レーベルが目指す「大人向けのラノベ」というのに非常に合致しているのでは無いかという作品でした。
ただ、一点気になる点を除いては。
Ⅲ.村上春樹やんけ!
そう、この作者の文体が村上春樹のモロパクリという点を除いては。
貴方がもし村上春樹作品を何作か読んでいれば、数ページこの作品を読み進めていくと、どこかで似たような文章を読んだような既視感を感じるはずだ。回りっこくて、ねちっこくて、答えがあるようで、答えがないような、意味があるようで、意味がないような文章。そう、正に村上春樹なのである。
因みに一文を抜き出すと
僕はそのままキャッチボールを眺めていた。あるいは、と考える。キャッチボールを見飽きないのは、そこになんらかの秩序があるからかもしれない。鳥が飛ぶ姿にも、噴水が吹き上がる様にも、言葉にしづらいけれど秩序を感じる。重力は巨大な秩序だ。巨大な秩序に逆らう、ささやかな秩序を僕は好むのかもしれない。なんにせよ僕は落書きが嫌いだ。あれは、あらゆる意味で秩序的ではない。(本文より抜粋)
ね、村上春樹でしょ?
また100万回生きた猫とか、ピストルスターの話とか、そこはかとない80年代の間違ったオサレ感が半端なく漂ってくる文章なのである。いや、決して読みにくいというわけではない。しかしながら、どうしようもなく村上春樹なのである。
だから村上春樹が嫌いな人間には、この文章はあまり面白くないと思う。そう、パスタに完璧な茹で加減が存在しないように、完璧な文章など存在しないからだ(棒)。
Ⅳ.総評
ともあれ、最近の所謂ラノベレーベル作品としては格段に面白く読みやすい。そこそこウケたようでシリーズ化されており、現在「階段島」シリーズとして3冊が発刊中だ。
手に取るか、手に取らないかはすべて君次第だ。そう、僕がそれを勧めることも、否定することもできない。勧めたとしてもそういうフリをしているだけさ。世界で起こる大半のことは、みんなそういうフリをしているだけなんだ(棒)。
(100書評チャレンジ:13/100冊)