日本では近年邦画に押されがちな洋画ですが、それでも頑張って興行収入を上げに行こうと策を練った結果、芸能人を吹き替えに使うパターンが増えてきました。元々の役者さんであればそこまで違和感ないのですが、最近はアイドルやお笑い芸人を使って散々な結果に終わるものもあります。
今回はそんなマーケティングの犠牲になった映画を紹介します。
Ⅰ.TIME/タイム
2011年のSFスリラー映画。監督・脚本はガタカで有名なアンドリュー・ニコル。出演はジャスティン・ティンバーレイクとアマンダ・サイフリッド、まぁ日本でいえばジャニーズやAKBが活躍する娯楽映画といっても差し支えはないのでしょう。
酷かったのがヒロイン、シルヴィア・ワイスの吹き替えを担当した篠田麻里子。棒読みは緊迫感のあるシーンでも続き、キモが座ってんのか感情がないのか分からないヒロインに。まぁアマンダ・サイフリッドもモデルなので、モデルやってる篠田麻里子が吹き替えてもいいっちゃいいのかもしれませんがね。
Ⅱ.LIFE!
ナイトミュージアムで主演を務めたベン・スティラーが監督・脚本・出演を務めた本作。空想好きだが地味で堅実な主人公が、ひょんなことから1本のフィルムを探すために現実の冒険へと出かける。この映画内容は非常に素晴らしいです。深夜特急好きなら惹かれる者があるかと思います。
問題の声優は、主演ベン・スティラーを担当した岡村隆史。棒読みなのはデフォルトとして、何故か関西弁で吹き替えを行います。NYの編集マンが関西弁です。もはや日本の配給側の悪ふざけでしかありません。もし普通に声優を使っていれば、もし普通の声優での吹き替えバージョンがあれば間違いなく人に勧められる素晴らしい1作になったであろうに、残念です。
Ⅲ.プロメテウス
リドリー・スコット監督による、エイリアンシリーズの前日譚を描いた映画。エイリアンのパニックホラーとしての側面は薄く、若干映画自体も黒歴史化しているところはあります。
問題の吹き替えは主人公のエリザベス・ショウの吹き替えを担当した剛力彩芽。うーん、名前を見ただけでマーケティングの犠牲と、その内容が目に浮かぶようなキャスティングです。公開当時は相当ボロクソに叩かれていましたね。
Ⅳ.風たちぬ
最後は宮崎駿監督の「風立ちぬ」。宮崎監督の(今のところ)引退作品となった作品。
問題は主役堀越次郎を演じた庵野秀明の吹き替え。アイドルでもお笑い芸人でもなく、まさかのアニメ映画監督が声優と、ネットを騒然とさせました。宮崎駿といえば声優を使わず、役者や芸能人を起用することが多い監督。しかし、ハウルの動く城では木村拓哉・我修院達也が意外にも好演を果たしていたことで、実は意外と上手いのではないのか・・・と期待をしていましたが、結果は酷いものでした。
仲が良いから出演したのか、いやよく聞けば良い声をしているからなのか、宮崎駿のセンスに我々がついていけないのか、全く分かりません。
しかし我々がただ一つ言えるのは、
「庵野、遊んでないでエヴァンゲリオンを作れ」
ということです。
Ⅴ.総評
個人的に声優業以外の人間が吹き替えを行うことに関し、私は否定的ではありません。例えばトイストーリーの唐沢寿明等、彼以外にはハマリ役が居ないと思うキャラクターもいますし、概ね役者業を行っている方の吹替えは一定のクオリティを保っています。
映画も要は興行ですから、人が集まらなければ話になりません。近年は映画離れが進むといわれる中で、興行収入を確保する面で話題性のある方を吹き替えに起用することは致し方ないことだとは思います。
しかし、それによって映画全体のクオリティを下げるのはご勘弁願いたい。役者の経験もなく明らかに下手な吹き替えしか出来ないなら、ワンシーン程度のチョイ役でのご出演で勘弁してほしい(ジュラシック・ワールドのオリラジとかね)。またどうしても主役で下手な声優を使いたければ、後日のセル販売では「声優Ver」を同時収録してほしい、私はそっち見るから。こうした配慮を行うことで、最低でも上記の洋画吹き替えで起こったようなファンからのブーイングの嵐は避けられるのではないのだろうか。
こうした批判をするとき、じゃあ全て字幕で見ろよと批判をする方もいるが、字幕には字幕の、吹替えには吹替えの良さがあるのである。また、映画館だとそもそも吹き替えしか選択肢がない場合もある。世界が多言語社会である以上今後も切っても切れない関係となる「吹き替え映画」。出来ることなら、今後もうまく付き合っていきたいと願うばかりである。