(書評)実話系怪談とミステリの融合「火のないところに煙は」(著者:芦沢 央)
ホラーとミステリの親和性は高い。
Ⅰ.あらすじ
「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の「私」は、かつての凄惨な体験を振り返る。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。「私」は、事件を小説として発表することで情報を集めようとするが―。予測不可能な展開とどんでん返しの波状攻撃にあなたも必ず騙される。一気読み不可避、寝不足必至!!読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリ!(「BOOK」データベースより)
Ⅱ.実話系怪談とミステリの融合作
異なるジャンルの融合と言えば、非常に斬新に感じるの場合もあるのですが、もともとホラーとミステリは紙一重の存在です。
鈴木光司の「リング」はジャパニーズホラーの代表格ですが、この作品にしても何故呪いが発生したのか、WHO DONE IT的なミステリ要素を含んでいます。とはいえ、ホラーというえば「幽霊の、正体見たり枯れ尾花」と言われるように、通常のミステリ作品のように100%解明してしまうと途端につまらない作品になるのですが…。
今回レビューする「火のないところに煙は」も、ミステリー要素とホラー要素を兼ね揃えた作品になります。
著者の芦沢央は「罪の余白」や「許されようとは思いません」等で評価される、新進のミステリー作家なのですが、ことホラー要素のある作品となると本作が初めてのようです。
本作は2016年から18年にかけて寄稿した5編の短編小説をまとめた作品ですが、文庫収録の際に一連の話としてまとめあげています。この短編ホラー小説をまとめて、一つのつながりにする手法といえば、「どこの家にも怖いものはいる」や「のぞきめ」を代表作に持つ、ホラー作家大御所の三津田信三を思い出します。
Ⅲ.変化に乏しい
では本作は三津田信三に近いかと言えば、そうとも言えません。
ページ数は多いですが形式としては所謂「実話系怪談」をベースとしており、ここが完全に小説ライクな三津田信三と異なります。
他の作家さんに例えるなら「拝み屋怪談」シリーズを書いた、郷内心瞳さんの作風に似ているでしょうか。
全体として文体は非常に淡白です。
個人的に文章が淡白なのはいいのです。むしろ、実話系怪談は1〜2ページで終わるのが主ですから、あっさり投げっぱなし程度がちょうど良いのですが、どの短編もストーリーの展開が一辺倒というのが気になりました。
各月の連載で持つならいいのですが、連続で読むと変化がなくて飽きるかもしれません。
Ⅳ.総評
全体的に綺麗にまとまっていますが、逆に言えば小綺麗にまとまりすぎている、といった印象を受けました。短編ごとに見ていけば冒頭の「染み」等は面白いエピソードですが、今ひとつ殻が剥けていないかな、という印象。
「怖くないホラー作品教えて!」と言われたら教えるかな?
(100書評チャレンジ:43/100冊)