(映画レビュー)サントリー山崎かな?「天気の子」(監督:新海 誠)
。
Ⅰ.あらすじ
離島から家出し、東京にやって来た高校生の帆高。生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく手に入れたのは、怪しげなオカルト雑誌のライターの仕事だった。そんな彼の今後を示唆するかのように、連日雨が振り続ける。ある日、帆高は都会の片隅で陽菜という少女に出会う。ある事情から小学生の弟と2人きりで暮らす彼女には、「祈る」ことで空を晴れにできる不思議な能力があり……。(映画.COMより)
Ⅱ.「君の名は」との比較論
公開2週間を経て、色々なブログでレビューされている新海誠監督最新作の「天気の子」。本当なら劇場で見るつもりはありませんでしたが、暇だったので先日レイトショーで見てきました。
見るつもりがなかったのも、本作に関して新海誠監督が「君の名はで怒っていた人たちを、もっと怒らせる作品にしたかった」とコメントしていたことにあります。
私は別に「君の名は」へ怒っていたわけではないですが、「つまんねぇなぁ」と思っていた人間だったので、多分今回の作品も同様の意見を持つのだろう、と思っていたからです。
結論からいえば、概ねそれは間違いがなかったように感じます。
ということで、「天気の子」に関し良かった点、悪かった点を整理してレビューしていきましょう。
Ⅲ.「天気の子」で良かった点
ではまず良かった点から。
Ⅲ-1.映像が綺麗だった
まぁこれは新海誠の代名詞ですから、当然ですね。
雨の東京の描写、そして雨から晴れに変わっていく描写、雲の隙間から光が差し込んでいく描写、そして様々に形を変える雲の描写。
同じ新海誠監督で雨の描写といえば、雨の新宿御苑をメイン部隊とした「言の葉の庭」を思い出しますね。
この映画の雨描写も相当良かったのですが、本作にて更にクオリティが上がっています。さすが、君の名はで大ヒットを飛ばしただけあり、資金が潤沢なのでしょう。
この辺りは、大ヒットメーカーとなった新海誠監督のこだわりを感じました。
Ⅲ-2.本田翼の演技はアリだった
一部で騒がれていた本田翼の声優起用への批判ですが、ところがどっこい、違和感があったのは最初だけで、最後の方はとても役にマッチしていて良かったです。
むしろ役が本田翼に合わせたかの様な、そんな感じさえ思わせます。
新海誠監督が舞台挨拶で「一番遠くに行ってしまった」と評価していますが、それは「一番下手だった」のではなく、ただ役に声を当てはめただけでなく、役を自分の演技に引っ張る様なアテレコができたことへの評価ではないでしょうか。
こういうキャラクターにきちんと魂込められる様な名演を見せた女優は、「この世界の片隅で」で主役を演じた女優・のんさん以来ですね。
Ⅳ.「天気の子」で悪かった点
ここから悪かった点です。
Ⅳ-1.目的がはっきりしない
この映画の最も悪い点が、目的がはっきりしないところだと思います。
基本的に映画や小説といった物語、特に本作の様なエンタメ作品に関しては、目的があります。
前作「君の名は」であれば、隕石衝突により滅びゆく飛騨の村を救うことが目的でした。「星を追う子ども」であれば、最果ての地「フィニス・テラ」へ向かうことで、「雲の向こう、約束の場所」であれば、ヴェラルーシに乗り塔へたどり着き、捕らえられたヒロインを解放するのが目的でした。
概ねエンタメ作品の醍醐味というのは、この目的をどのように達成するのか、アクション映画ならダイナミックに、恋愛映画ならロマンティックに、サスペンスなら驚愕する様に描くのが基本となります。
そして数々の名作に共通するのは、この目的を早めに提示することです。バック・トゥ・ザ・フューチャーも、ダイ・ハードも、50回目のファーストキスも、ソウも(これはちょっと特殊ですが)目的は映画序盤20分には観客に提示されています。
本作「天気の子」に関しては、その目的が非常に曖昧、かつ提示が物語後半となっているのが悪い点です。また、その解決に至るアプローチも基本的には「主人公の根拠のない思いつき」にすぎず、また解決に至る迄の障害が非常に低いのも問題でしょう。
つまるところ、本作で得られるシナリオのカタルシスがとても少ないのが問題だと感じるのです。
Ⅳ-2.主人公が成長しない
Ⅳ-1にてエンタメ作品の基本を提示しましたが、もちろんそうでない作品もあります。
例えば、「主人公や周りの成長・変化」を描いた作品です。
若き日のマット・デイモン主演の「グッド・ウィル・ハンティング」では、境遇に恵まれない1人の天才少年と、彼の才能に気づいた1人の心理学者が、出会いを通じ成長していくストーリーとなっています。またトム・ハンクス主演の「フォレスト・ガンプ 一期一会」は、1人の軽度知的障害を持った男の半生を、アメリカの歴史をなぞりながら描いた傑作です。
では、天気の子もそうした成長を描いた映画かと言えばそうではありません。
というより、主人公および周りは全く成長しません。
この映画の名?台詞に「僕たちから何も足さないで、何も引かないでください」というサントリー山崎かな? と突っ込みたくなるものがありますが、本当に何も変わりませんでした。
Ⅳ-3.行き当たりばったりなストーリー
映画というのは、大きな目的を軸としたメインシナリオと、複数の小さな目的を軸としたサブシナリオで構成されます。
バック・トゥ・ザ・フューチャーで言えば、「未来に帰る」のがメインシナリオであり、「過去の父と母をくっつける」ことや「ビフに勝つ」こと、「音楽で評価されること」がサブシナリオになります。この様なメインシナリオと複数のサブシナリオが互いに相乗効果をもたらすと、映画のシナリオに奥行きが出ます。
ですが、「天気の子」にはⅣ-1で述べた様に、そもそもメインシナリオとなる大きな目標が提示されるのが非常に遅いです。そのせいで、サブシナリオとメインシナリオの関わりが非常に薄く、話に奥行きが出ません。
話を掘り下げようと思えば、帆高が家出をした理由などがあったのに、何故しなかったのでしょうか。
だからキャラクターがペラッペラに見えるし、主人公とヒロインの恋愛感情に全く納得感を感じることができません。このペラッペラ感が、「天気の子」という映画全般に言える評価でしょう。
Ⅴ.総評
天気の子のラストで、空の上から主人公とヒロインが落ちていくシーンを見てエウレカセブンのバレエ・メカニックを思い出していました。
一緒に見ていた嫁は、「千と千尋の神隠しだね」とコメントしてました。
一般人とオタクの差を感じた瞬間でした。
(100映画レビュー:23本目)