雨の日の大人たちは

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(書評)ホラー小説というよりは幻想小説「異形のものたち」(著者:小池 真理子)

 いつも通りの小池真理子。

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Ⅰ.あらすじ

 母の遺品整理のため、実家に戻った邦彦。安寧とは言えない妻との関係、存命だったときの母と父のこと……思いを巡らせながら、セミの合唱響く農道を歩いていた。ふと気が付くと、向こうから白い日傘をさした和服姿の女性が歩いてくる。女はその顔に、般若の面をつけていた――。(「面」)。

 その他、親友とその父親との思い出にひたるうちに驚愕の結末に辿り着く「森の奥の家」、人生の落ち目にいる女が奇妙な歯科医院に出会う「日影歯科医院」、病弱で一途な白人女性の繊細な手袋をめぐる「ゾフィーの手袋」、恩師の法事の帰りに立ち寄った山荘の地下道で、得体の知れない“何か”が蠢く「山荘奇譚」、怖くも懐かしい鮮やかな幻想「緋色の窓」、の全6篇。

 “この世のものではないもの”は、いつも隣り合わせでここにいる。

 甘く冷たい戦慄が本能を歓喜させる――大人のための、幻想怪奇小説集。(amazonより引用)

 

Ⅱ.「墓地を見下ろす家」というレジェンド

 小池真理子のホラー小説といえば「墓地を見下ろす家」でしょう。

amenoh.hatenadiary.jp

  所謂「リング」をはじめとするモダンホラーの先駆け的存在である本作は、1993年に誕生しました。読んでみると、「リング」や「ぼぎわんが、来る」の様な、現代まで続くホラーエンターテイメント小説の基礎が見えてきます。

 ただ小池真理子のホラー作品自体は、短編集がその大半を占めています。

 本作「異形のものたち」も、そんなホラー短編集の1冊です。

 

Ⅲ.綺譚に近いホラー作品

 短編集なので、1話毎に簡単にレビューしていきます。

⑴面

 真夏の農道にて遭遇する怪異に関して描いた作品。蒸し暑い農道の描写がリアリであり、その怪異の異様性を高めているように感じます。作中の主人公の独白が、いかにも小池真理子って感じの作品でした。

⑵森の奥の家

 一話目の「面」と打って変わって、小雪が舞い始める冬を描いた作品。仲の良かった友人親子と過ごした別荘を舞台とした怪異を描く。オチに関しては賛否両論あるかと思うが、まぁ小池真理子の好きそうなオチである。

⑶日影歯科医院

 本短編集で一番ゾクっとくる一作。何故病院の怪異って恐ろしく感じるのでしょうか。話に関して救いがありそうで、なさそうな感じもする。短編の中でもアップダウンが激しい作品。

⑷ゾフィーの手袋

 夫を亡くした未亡人が遭遇する怪異。舞台は日本であるが、ゾフィーというオーストリア人の女性が出てくる。幽霊のホラーというよりかは、女性の執念・情念という意味でのホラーさを感じる。

⑸山荘奇譚

 ありがちな山間の宿を舞台とした奇譚。全6作の中で一番なんというか、普通。怪異に関して深掘りがあったりすればいいのだが、基本的に小池真理子作品は怪異自体を掘り下げないので、のっぺりとした感じに仕上がっている。

⑹緋色の窓

 ホラーというよりかは、幻想小説というような作品。6編の中では最も完成度が高い様に感じる。前東京オリンピックの3年後という昭和を舞台とした本作は、古めかしさの中にも情緒さを感じる様な、怪異の中に哀愁を感じる作品となっている。

 

Ⅳ.総評:小池真理子ホラーは難しい

 小池真理子の他の短編集を読んでいれば分かると思うのですが、この人の作品は霞の様な作品です。捉えどころがなく、モヤがかったその先にぼんやりと情景が浮かび上がる。と思ったら、そのモヤの中からグイッと腕が伸びてきて、ヒヤリとさせる、そんな作風。

 どの短編も完成度が高いのは、大ベテランである小池真理子の実力を伺うことができるかと思います。ホラーが苦手な方でも楽しめますし、むしろそういう方にこそ読んでほしい短編集でした。

(100書評チャレンジ:41/100冊)

 

異形のものたち

異形のものたち