雨の日の大人たちは

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(書評)恒川流SF世界を描く「滅びの園」(著者:恒川光太郎)

 この人の世界観は本当に素晴らしいと思う。

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Ⅰ.あらすじ

突如天空に現れた<未知なるもの>。 世界で増殖する不定形生物プーニー。 抵抗値の低い者はプーニーを見るだけで倒れ、長く活動することはできない。 混迷を極める世界を救う可能性のある作戦は、ただ一つ――。

 

Ⅱ.幻想的な恒川ワールド

 恒川光太郎といえば、代表作は「夜市」だろう。

amenoh.hatenadiary.jp

 

 第12回日本ホラー小説大賞を受賞した本作は、ある意味でデビューから現在までの恒川ワールドを表している。幻想的でありながらも、浮世離れしていない。街中を歩いていて、ふと入った小道の先に広がっていそうな、そんな奇妙な親近感を抱く。

 本作の「滅びの園」も、そんな恒川ワールドを十分に味わえる作品だ。

 プーニーという未知の現象に襲われた世界と、その元凶に取り込まれた男性が見る幻想が交錯しながらストーリーは進んでいく。男性の見る幻想は「風の古道」の様な、厄災に見舞われる世界は「秋の牢獄」の様な、著者の過去作に通ずる雰囲気を醸し出している。

 

Ⅲ.恒川風「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」

 この作品を読んで思い出したのが、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」だ。この作品もまた、スリリングな「ハードボイルドワンダーランド」と、退廃感漂う「世界の終わり」の二つの世界が交錯し、ストーリーが進んでいく。

 「世界の終わりと〜」の様な難解な作品では無いが、2世界の対比を描いた両作には通ずるものがあるだろう。滅びの園ではその対比はもっとダイレクトに、幻想ではあるが理想的な世界と、現実ではあるがディストピアな世界として描かれる。

 ある意味で恒川風の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」であるといえよう。

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)新装版 (新潮文庫)

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Ⅳ.薄いおすましの様な作品

 恒川光太郎作品全般にも言えることなのだが、薄味である。

 例えるのであれば、高級料亭で出される、高級あご出汁で取った薄味のおすましのような作品だ。ほんわりと味はあるのだが、具もないから食べるものがない。いつの間にか口の中に余韻だけ残して、すーっと消えていく。

 ある意味でこの様なジャンルの作家は必要である。

 誰もがずっと、手に汗握る冒険活劇や、胸踊るロマンス、ハラハラするサスペンスを望んでいるわけではない。飲みすぎた次の日にはお味噌汁がちょうどいい様に、物語にも波が必要なのである。

 そういう意味で、恒川光太郎の作品は「おすまし」の役割にぴったりだ。しかし、彼の作品がメイン料理として食卓に乗ることは今の所なさそうである。

 

Ⅴ.おすましの価値

 ジャンルとしてはSFに分類される様な、ファンタジーに分類される様な、いやこれは「恒川」というジャンルさと言われるのがしっくりくる作品である。ある意味で音楽会でいうBUMP OF CHICKENの様な、独立的なジャンルを築いてきたのかもしれない。

 この人の作品に関しては、なんとなくであるが評価をためらってしまう。

 食べログで「この店のおすまし美味しい! 評価5!」となるかと言われれば、そういうわけでもない。

 おすましじゃ星5は厳しい。

 いいとこ星4なんだよなぁ、恒川光太郎は。

 (100書評チャレンジ:32/100冊)

 

滅びの園 (幽BOOKS)

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