(書評)幕末を舞台としたホラー作品「人魚ノ肉」(著者:木下 昌輝)
幕末とホラーのコラボという異色作品。
Ⅰ.あらすじ
坂本竜馬、芹沢鴨、近藤勇、土方歳三、沖田総司、斎藤一、岡田以蔵…想像を絶する幕末京都伝!人魚の肉を食めば、妖に憑かれる―。時代小説界の麒麟児、書き下ろし野心作。(BOOKデータベースより引用)
Ⅱ.人魚伝説をテーマとした異色作
人魚をテーマとした小説だと、岩井俊二の「ウォーレスの人魚」なんかを思い出します。本作は直木賞候補として注目された木下昌輝の二作目の書き下ろし小説。動乱の幕末を舞台に、岡田以蔵・坂本龍馬から始まる人魚をテーマとした8編の短編で構成され、それが一つの作品となっています。
海外では人魚姫等、メルヘンな空気のある人魚ですが、日本では不老不死伝説や各地に祀られる人魚のミイラ等一変してオカルティックな空気に変わります。
本作ではそんな中でも構成に色濃く爪痕を残す、八百比丘尼伝説をベースに話が展開されます。
Ⅲ.登場人物が面白い
基本的な話の流れとしては、人魚の肉を食べた幕末志士や新撰組の隊士に降りかかる変異を描いています。ここで面白いのが、メインの登場人物が全て実在しているということです。
「妖ノ眼」の章では、左目を失った平山五郎という登場人物が、人魚の肉を食らったことで人知を超えた「第三の目」を開眼することになります。この平山五郎という人物は実際に新選組の隊士であり、WIKIPEDIAにも項目があります。
物語はこの「第三の目」を覚醒したことにより、本来死角である左側からの攻め込みに強くなった、というストーリー展開になるのですが、実際の平山五郎も死角である左側からの攻め込みに対して強かったようです。
各短編ではこのように史実を忠実に用いて、かつそれを人魚の怪異に繋げるという、面白い試みがなされています。
Ⅳ.コラボレーションは面白い
人魚と幕末という、連想し難いコンテンツの結びつきがとても面白かったです。またⅢの通り、それをとてもうまく処理していることに好感が持てます。
ただ短編をまとめた形となるため、どうしても長編と比べパンチが弱いのが否めないところです。短編の進め方も、人魚の肉に対する謎を深めるというよりは、淡々と登場人物に振り抱えるエピソードを描いている感じ。
とはいえ、直木賞作家候補というだけあり、エンターテイメント性はとても高い作品だと思います。
こういう系統で、もう一作書いて欲しい、そう思わせる魅力をひめた作品でした。
(100冊レビュー:28/100冊)