雨の日の大人たちは

「100食」「100本」「100冊」「100記事」をテーマに、ダウナーなアラサーが日記書いています。

(書評)学生アリスシリーズの原点「月光ゲーム」

 本格推理小説と、青春小説の融合。

f:id:amenoh:20170813165246j:plain

  今や超有名ミステリ作家となった、有栖川有栖のデビュー作にして、学生アリスシリーズの第1作目。

 

Ⅰ.あらすじ

 夏合宿のために矢吹山のキャンプ場へやってきた英都大学推理小説研究会の面々―江神部長や有栖川有栖らの一行を、予想だにしない事態が待ち構えていた。矢吹山が噴火し、偶然一緒になった三グループの学生たちは、一瞬にして陸の孤島と化したキャンプ場に閉じ込められてしまったのだ。その極限状況の中、まるで月の魔力に誘われでもしたように出没する殺人鬼。その魔の手にかかり、ひとり、またひとりとキャンプ仲間が殺されていく…。いったい犯人は誰なのか。そして、現場に遺されたyの意味するものは何。

 

Ⅱ.火山のクローズドサークル

 ミステリ、特に推理小説において最もメジャーなジャンルがクローズドサークルものでしょう。クローズドサークルとはつまり、「外部と接触の絶たれた、限定された空間」で発生する事件を描いたものであります。このジャンルで有名なのは、雪山のペンションを描いた「かまいたちの夜」や、館ものとして同じみ「十番館の殺人」なんかがあるでしょうか。

 たいていの場合は、舞台は「館」や「島」なんかがメインになるのですが、本作品のクローズドサークルは「噴火した火山」。唯でさえ緊急事態であるにも関わらず、連続する殺人に怯えるという展開となっている。

 

Ⅲ.昨今見なくなった本格推理もの

 ミステリといえば、最近は犯人がなぜそうするに至ったかの「ホワイダニット」に焦点を当てる作品や、奇をてらった叙述トリックがメジャーとなっていますが、本作は本格推理小説であり「フーダニット」に焦点を当てた作品となっています。

 というのも本作を読めばわかるのですが、作内でキチンと情報を提示した上で「読者に推理してください」と作者が投げかけるシーンが差し込まれている。そう、これはミステリでなくあくまで「推理小説」なのであるというのがそれで分かる。東野圭吾や伊坂幸太郎、湊かなえなんてミステリ作家と比べ、話の構成が全く違うことが読み取れるだろう。

 

Ⅳ.でももう30年前の作品

 ストーリー構成や、「火山」という斬新な舞台をテーマは現在においても十分通用すると思うのですが、犯人の殺人に至る動機や各登場人物の描き方などはおざなりになっていると感じます。まぁ基本的に30年前の作品ですからね。私が産まれる前後に世の中に出た作品なので、その当時と今の流行り廃りというやつでしょう。

 それでも、今でいう「氷菓」のような青春ミステリ感と本格推理小説、二つの側面を併せ持つ名著だと感じます。このシリーズは今後も続き、現在4作目まで発刊されています。どうやら5作目でシリーズ完結のようですが、4作目が出たのが今から10年前。随分とゆっくりとしたシリーズの本作ですが、果たして完結はいつになるのでしょうか。そして江神さんは卒業できるのか。

(100書評チャレンジ:26/100冊)

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)

月光ゲーム―Yの悲劇'88 (創元推理文庫)