雨の日の大人たちは

「100食」「100本」「100冊」「100記事」をテーマに、ダウナーなアラサーが日記書いています。

【15/100本】戦中の人間模様を鮮やかに描き出す「この世界の片隅に」

 困った、これはまたどえらい名作を見てしまった。

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 Ⅰ.あらすじ

 昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に18歳で嫁いできた女性すずは、戦争によって様々なものが欠乏する中で、家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。それでもなお、前を向いて日々の暮らしを営み続けるすずだったが……。

 

 Ⅱ.今年1番の映画?

 11月に公開となり、既に10週目に突入しようかというタイミングで見てきました「この世界の片隅に」。色々と話題になっている本作ですが、正直私は敬遠していました。何故か、それは戦争映画はイデオロギーの塊になりがちだからです。
 特に邦画ではそれが顕著ですね。まぁ別に私は前大戦を肯定する気も、戦争を賛美する気もさらさらないのですが、かといってお説教じみた反戦イデオロギーも聞いていて飽き飽きしてくるのです。

 ということで、好評な意見は聞きつつも見ていなかった本作ですが、ブルーリボン賞受賞やキネマ旬報での年間ベスト1位受賞等、何だか一大ムーヴメントになりそうな気配が漂ってきたこの頃。今年の邦画1位は間違いなくシン・ゴジラだと思っていた私ですが、その対抗馬は如何様なものなのか見に行った次第であります 。

 

 Ⅲ.手放しで称賛できる映画

 結果としては… 素晴らしいの一言。

 勿論作品性がシン・ゴジラと全く違うので、どちらが優れているのかは比較できないのですが、確かに上記両賞を受賞するだけはある作品だと言えます。ここ何年かの邦画というカテゴリの中でも屈指の名作なのではないでしょうか。

 舞台は戦時の広島県・呉。そこへ嫁入りしたすず(声優:のん)と彼女を取り巻く人々の生活を、水彩画のような淡い色使いで描いている。序盤~中盤はコメディタッチに、すずを取り巻く環境、物資の配給が滞るようになってもたくましく生きる人々を描いている。中盤~終盤に掛けては、戦争の被害が深刻化し、その魔の手がすずの身にも降りかかってくる。

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 主人公:すずを能年玲奈こと「のん」が演じているのだが、これが本当に素晴らしい。唯の絵であるアニメのキャラクターは、声優がついて初めて魂を入れられる。ある意味キャラクターは器である。そこにどの様な魂を入れるのかでキャラクターの生き死にが決まってくるのだが、主人公すずとのんは、そこが本当によくハマっている。魂を込められたキャラクターとはこういうことなのだろうか。特に後半からのすずの葛藤に於いては、その一言一言に心を動かされる。声に感情が乗っている、そう思える程一言一句が心に響く。

  ストーリー展開に関しても、邦画の良いところをキチンと丁寧に料理したような、そういったきめ細やかさが伺える。前半の日常シーンでは特にそれが上手く表現されており、作中全体の雰囲気を壊すことなく、コミカルなシーンを上手く演出している。また他のレビューでもよく言われているように「押しつけがましい反戦イデオロギーがない」というのも評価が高い。だがかと言って、これが反戦を描いていないという訳ではない。むしろ戦争の悲惨さを教えるうえで、この映画程適任と言える映画はないのかもしれない

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 果たして現代を生きる我々に、零戦のパイロットの気持ちが分かるだろうか、大和の搭乗員の気持ちが分かるだろうか、特攻隊の、硫黄島の、インパールの兵士の気持ちが分かるだろうか。いいや、分かるまい。いや、分かっていたとしてもそれはフィクションの世界でしかないのだ。そもそも現代と戦中では事情が変わりすぎていて、それを理解しようとすることこそ土台無理な話なのである。

 だが、当時の普通を生きる人々の気持ちはどうだろうか。物資が少ない中でも、家族に美味しい料理を食べてほしいと思う気持ちや、知らない場所で知らない人たちと生活する時の不安は理解できるのではないだろうか。色々な失敗を繰り返しながらも、嫁ぎ先の中で次第に家族になっていく主人公に、多くの人は共感するのではないだろうか。そういった基礎的な部分においては、戦中の人々も今を生きる我々も同じなのであって、理解できるのである。そうした、我々と戦中の人々が同じであると理解出来たところで不意に訪れる戦争という名の魔の手は、「戦争が何故怖いのか」ということを本当にリアルに描き出している。

 

 Ⅳ.「この世界の片隅に」は新たな「はだしのゲン」になり得るか

 戦争を語る上で、「はだしのゲン」という漫画がある。

 主に原爆投下後の広島を舞台とし、原爆の恐怖と戦争の恐ろしさ、そしてそこに生きる人々の強さと弱さ、希望と絶望を描いている。世の中のアラサーは間違いなく一度は図書館ではだしのゲンを読んで育ったのではないのだろうか。同様に広島を舞台とし、原爆も描かれている「この世界の片隅に」であるが、本作は平成の「はだしのゲン」になり得るのだろうか。

 答えとしては、ちょっと難しい、だろう。ネット上でレビューを読んでみると、若年層からの評価は余り高くないのが読み取れる。逆に年齢層が高いと評価も上がっていく。まぁ若いうちは直接的な評価の方が分かりやすいのかもしれない。自分としても、はだしのゲンの原爆投下時の話は、今でも思い出すほどトラウマとなっていますし。

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 ということで、多分一辺倒の反戦映画にうんざりしている人には非常にいい映画となるでしょう。というより、一人の人間の成長ドラマとして見ても十分見ごたえがあります。というか、のんの演技を聞くだけでも十分価値はあります。てか見なさい。

 絶対に1,800円の価値はあるから。

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