(書評)ファンタジーとミステリの融合「折れた竜骨」
こういう系統のお話大好き。
Ⅰ.あらすじ
ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、「走狗(ミニオン)」候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年──そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ? 魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り着くことができるのか? 現在最も注目を集める俊英が新境地に挑んだ、魔術と剣と謎解きの巨編登場!
Ⅱ.ファンタジー? ミステリ?
米澤穂信といえば、直近でいえば「満願」がこのミスで1位を飾るなど、今一番注目されるミステリ作家といっても過言ではないでしょう。古典部シリーズ等、ライトな作品から追憶五断章のような本格ミステリまで幅広い作風を持つ作者の作品群の中でも、異彩を放つのが「折れた竜骨」です。
あらすじを読めばわかるように、剣と魔法のファンタジーの世界を舞台にミステリを行うという、ノックスも激オコ必死の作品。舞台や設定こそ、実際のヨーロッパ12世紀をモデルにしているものの、出てくる魔法は本物であり、決してトリックのある手品ではない。よくある「魔術かと思ったら、それは手品のトリックだった」というような落ちではなく、魔術が魔術として存在している世界だ。
そうした魔術が今回のミステリのカギとなる。「走狗<ミニオン>」として主人公の父を殺した犯人は誰なのか、幾つもの魔術が交錯する中で騎士フィッツジョンが真相へと迫っていく。
Ⅲ.ファンタジーとして面白い
まずこの話がファンタジーとして面白いのか、ミステリとして面白いのかというと、私はファンタジーとして面白いと思う。ミステリとしてつまらないか、といえばそうではないが、まぁある程度ミステリ小説を読んでいる方であれば犯人やオチは想定できるのではないだろうか。トリックとしてはその前提として魔術が用いられていることもあり斬新ではあるが、落ちまでの持っていき方としては、いや魔術が用いられているからこそ、ある程度想定が付く。
そういうミステリを、ファンタジー世界で描いているのが面白い。特に、12世紀をモデルとし史実とファンタジーが入り混じったような世界観でやると尚更だ。剣と魔法と謎解きは、意外と親和性があるのかもしれない。
Ⅳ.感想
短めながら、文庫本二冊という内容を一気読みさせられるテンポの良さは、相も変わらず米澤穂信の強みであると思う。キャラクター描写も、少しジュブナイル小説臭い物のしっかりと各キャラが引き立っており、魅力がある。
もうこういう小説は書かないのだろうか。というか、続編を書いてくれないだろうか。ていうか、スピンオフでもいいのだけれど。
(100書評チャレンジ:20/100冊)