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雨の日の大人たちは

「100食」「100本」「100冊」「100記事」をテーマに、ダウナーなアラサーが日記書いています。

【15/100冊】小林泰三の代表作「玩具修理者」

100冊 ★★★★★ オカルト 書籍(小説)

 でも題名作じゃない方が私は好き。

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 Ⅰ.あらすじ

 玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも……死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬうちにどうにかしなければ。私は弟を玩具修理者の所へ持って行く……。現実なのか妄想なのか。生きているのか死んでいるのか――その狭間に奇妙な世界を紡ぎ上げ、全選考委員の圧倒的支持を得た第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。

 

Ⅱ.「玩具修理者」は佳作

 SFやミステリーでは、もはや知らないものはいないだろう大作家、小林泰三のデビュー作が「玩具修理者」である。女性が語る幼い日に出会った「玩具修理者」との記憶は、日常の中の非日常を克明に描き出している。とはいえ第二回日本ホラー小説大賞の短編賞を受賞した本作であるが、「衝撃的」というには少しオチが見えやすいストーリー展開だ。作品としては中の上といったところで、取り立てて「素晴らしい作品」とは言えないというのが正直な感想。

 が、実のところこの作品は、元々妻が日本ホラー小説大賞に送ろうとした所、諦めたので締切の数日前にちょちょいと書いた作品なんだとか。それを知って読んでみると、小林泰三の作家としてのポテンシャル能力の高さが分かる。

 

Ⅲ.本命は「酔歩する男」(ネタばれあり)

 しかしこの本の本命は「玩具修理者」ではない。本命は本冊に収録されたもう一つの作品「酔歩する男」だ。

 

・あらすじ

 主人公・血沼は、とあるパブで大学時代の親友だと言う小竹田という男から声をかけられる。血沼にはその男の面識は無かったものの、妙な言い振る舞いをする小竹田に興味を持つ。

 彼は何を言っているのか、自分と親友というのはどういうことか。すると、小竹田の口から予想だにしない答えが返ってくる。

 

 本作品は、タイムトラベルをテーマに置いた作品である。いや、タイムトラベルとは少し違うかもしれない。タイムトリップ、いやタイムドリフトといった方がいいだろう。

 語り手である小竹田と血沼は、元々親友であったがある女性を巡って争うことになる。しかしその争いの中で、不幸から女性は命を失う。血沼は彼女を生き返らそうと小竹田と誓う。30年後、そんな事をすっかり忘れていた小竹田の元に血沼が現れタイムトラベルが完成したと伝える。それは人間の体の中にある「時を正しく認識する機関」を壊すことにより、時の「過去から今、今から未来」といった流れから脱却するという方法だった。

 結果は成功であったが、これを良くした小竹田は血沼を陥れその技術を自らのものだけにする。しかしそれは大きな間違いだった。これはタイムトラベルというには余りにも未完成だった。本来であれば飛ぶべき場所や時間が設定できてこそのタイムトラベルだが、この方法では行先は設定できない。つまり、ランダムに時間を飛ばされ続けるということである。タイムトラベルをし続けるということは、人生に終わりがないのと一緒である。こうして小竹田は数万年、数億年ともいえる時間をループしながら生きているのだという。

 そして小竹田は血沼にこう続ける。貴方はタイムトラベラとしての能力は無いようだが、別の機関を壊している。昨日と今日で街は同じだったか、同じ職場だったか、いきつけの店は同じところにあったか、友達の中に見知らぬ人間が居ないか。心当たりのある血沼は必死に否定するも、徐々にその考えに心が支配されていく。

 

 世にも奇妙な物語に出てきそうなお話ですね。無限の時を彷徨い続ける小竹田の話も恐ろしいですが、血沼の本当に昨日と今日で世界は同一なのか、という話も非常に恐ろしいです。時間の連続性というのは、人間が誰しも持っている普遍的な価値観です。今日が終われば明日が来るし、明日が来た時点での今日は昨日になる。そんな当たり前の事が揺らいでくると、人間はどうなるのか。世界とは確かにあるようで、非常に不確定な土台の上に立っているのではないだろうか。

 一番人間の「当たり前」であることを揺さぶるような作品。是非一度読んでいただきたい一作です。

 

玩具修理者 (角川ホラー文庫)

玩具修理者 (角川ホラー文庫)