雨の日の大人たちは

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【1/100冊】日本ホラー小説大賞受賞作「かにみそ」

 美味しそうなタイトルから奇抜なストーリーを持つ倉狩聡作「かにみそ」

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  ホラー小説といえば角川ホラー文庫。そして角川が主催するのが日本ホラー小説大賞です。本作品はその優秀賞受賞作。因みに以前ご紹介した恒川光太郎の「夜市」は同賞にて大賞を受賞しています。

amenoh.hatenadiary.jp

 Ⅰ.あらすじ

 全てに無気力な私が拾った小さな蟹。何でも食べるそれは、頭が良く、人語も解する。食事を与え、蟹と喋る日常。そんなある日、私は恋人の女を殺してしまうが……。私と不思議な蟹との、奇妙で切ない泣けるホラー。 (amazonより抜粋)

 

Ⅱ.内容

 本作は短編小説であり、文庫には他に「百合の火葬」が収録されているが、今回は「かにみそ」だけに注目する。

 角川らしい奇妙な一作、というのが読んだ後の第一印象。どこまでも日常的なシーンの中に、喋るカニという奇妙な一点が本作の異色さを物語っている。カニは喋るだけでなく、テレビも見るし、新聞も読むし、政治について討論したりする。そして人間を食べる。

 主人公は被虐的で、人生に対して悲観的な感情を持っている。職を転々とし、自分より弱い生き物に対してしか強気になれない。そして、そんな自分にさえ優しくしてくれる両親に劣等感を抱いている。そんな彼が浜辺で拾ったのが一匹のカニである。このカニがふとした切欠で主人公に話しかけてくるのだが、このカニが主人公と正反対のように明るく人間的なのがコミカルで面白い。

 このカニが、主人公のしでかしたあることが切欠で人間を食べるようになる。主人公は最初それを面白がるものの、次第に罪悪感を覚えるようになる。そしてある日大きな決断をするのだが、それが衝撃のラストになる。

 最終的に主人公はカニの如く今までの自分から「脱皮」し、人間性を取り戻した。生物としての本能である「生きたい」という心を取り戻した主人公は、カニを拾った海岸で友人のことを思うシーンで物語は幕を閉じる。

 ホラー作品であるので一部ホラー要素があるものの、時にコミカルであり、時に切なくなる良作のエンターテイメント作品である。とりあえず衝撃のラストは必読といっていい。いや、予定調和かもしれないがそこがまた良い。きっと貴方もそうしたくなるから。

 

評価:★★★☆☆

 

(100書評チャレンジ:1/100冊)

 

かにみそ (角川ホラー文庫)

かにみそ (角川ホラー文庫)