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雨の日の大人たちは

「100食」「100本」「100冊」「100記事」をテーマに、ダウナーなアラサーが日記書いています。

安保法案改正だから再見したい「機動警察パトレイバー2」の魅力

 9月末に改正安保法案が可決されまして、日本も集団的自衛権が行使できるようになりました。これが良いことか、悪いことかというのはさておいて、日本が同盟国(アメリカ等NATO側)と今以上に緊密な連携を取り軍事行動を展開できることは間違いないでしょう。
 日本にも戦争を描いた映画は幾つかあるものの、その殆どは第二次世界大戦を描いたものです(でもって、その殆どが終戦末期の負け戦ばっかりなんだから困ったもんです。たまには勝たせてあげればいいのに)。そうした中で、現代日本でもし戦争が起こったら、という過程で描かれた作品は多くありません。

 今回は、現代日本で起こりうる戦争を描いた「機動警察パトレイバー2」をご紹介します。

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 Ⅰ.概要

 2002年冬。横浜ベイブリッジに謎のミサイル投下!報道はそれが自衛隊機であったことを告げるが、該当する機体は存在しなかった。これを機に続発する不穏な事件は警察と自衛隊との対立を呼び、事態を重く見た政府は遂に実戦部隊を治安出動させた!!東京に戦争を企むテロリストを追って、第二小隊最後の出撃が始まる!!(公式ストーリーより)

 監督押井守、脚本伊藤和典という、昭和末期~平成初期に掛けたアニメ映画界屈指の名コンビの政策によるゆうきまさみ作パトレイバーの劇場版二作目です。しかしながら、既にパトレイバーという作品自体は器・土台に過ぎず、中身はほぼ押井守と伊藤和彦が独自に作り上げたものといってもいいでしょう。劇場版1作目はまだ原作のコメディタッチな作風も残っていましたが、2作目は完全オリジナルストーリーかつ、押井ワールド全開の作風となっています。

 また、この作風は監督が変わった劇場版3作目「WXIII 機動警察パトレイバー」にも引き継がれます。原作にあるストーリーではありますが、二人の刑事の別視点からストイーリーを追う形式を取っています。また作画監督も黄瀬和也が担当し、「パトレイバー3部作」で一貫して制作に関わり、原作とは異なる作風の確立に貢献しました。

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Ⅱ.ストーリー進行

 ストーリーはテロリストであるツゲによる、綿密に計画された東京テロを軸に進んでいきます。突如行われるミサイル攻撃、航空機のスクランブル発信、そして「警察」と「自衛隊」というある種の日本の禁忌に触れながら徐々に混乱していく東京を描いています。当時の日本の防衛体制、危機管理能力の欠如を痛烈に批判した押井守らしい作品となっています。

 混乱する警視庁の会議室で、悠長に会議を行っている警視庁幹部を後藤が一括するシーンは本作の名場面の一つです。

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 ストーリーは水面下で着々と進行しているように見えて、実のところ目立った攻撃はストーリー後半まで行われていません。それが逆に本当のテロのように感じ、視聴者を不安に陥れます。そして、攻撃ヘリによる橋・連絡塔の爆破により最終的なツゲのテロリズムが開始されます。

 展開に関しては本当に素晴らしく、GHOST IN THE SHELLに並び脚本家伊藤和典の最高作といってもいいでしょう(こんな素晴らしい脚本を書けるのに、何故貞子3Dなんて書いてんだ。全ては制作側に問題があるのか)。勿論映画なので「テロにしては出来過ぎている」という内容であることは否めませんが、そこはまぁ映画なので。何度見てもハラハラドキドキしますし、台詞回しは十二分に大人が鑑賞に堪えうる、いや大人でなければ鑑賞に堪えない内容となっています。

 

Ⅲ.声優

 声優に関しては、パトレイバーのレギュラーキャラクターに関してはTVアニメ版を重修しつつも、他のキャラクターに関しては押井監督のこだわりが見えます。

 特に本作のキーパーソンの一人である陸幕操作部別室の荒川に関しては、俳優の竹中直人が演じています。普段コメディタッチな俳優として出演することが多い竹中直人ですが、この選出はアタリです。荒川から語られる重みのあるセリフの一言一言は、竹中直人以外に考えられません。

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 また作品にはニュース映像が映る場面が多いのですが、そこで使用された音声に関しても、ただの声優ではなく、文化放送の現役アナウンサーが担当しています。これにより、本作の臨場感が格段に増しています。聞きなれたあののっぺりとした口調のニュースは、現実と映画の中間を埋めるようで、もし日本でこのようなテロが発生した場合、恐らくこのような感じでニュースが流れるのだろう、と想像させられます。

 

Ⅳ.作画と演出

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 演出は押井守の得意とする、静と動の絵の取り方が存分に堪能できる内容となっています。これに関しても、GHOST IN THE SHELLで同じく押井と制作を共にした演出家西久保瑞穂の腕が光る一作でしょう。最後の海鳥が舞う中で、テロリストであるツゲと南雲のシーンは男女の大人びた恋愛感情を上手く演出しています。

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 ヘリコプターが降下し、海鳥が羽ばたいていくと同時に、二人の関係もそこで終止符を打たれるの また重厚な内容に合わせ、キャラクターデザインをリブートした高田明美と、そのリブートした作風を抑えつつ上手く押井色に落とし込んだ黄瀬和哉の手腕も素晴しいものでしょう。これは劇場版3作目でも加速していき、3作目になるともう原作のキャラクターは誰が誰なんだかわかりません。

 しかしながら劇場版ということもあり、相当数の枚数で描かれた原画には、手書きの素晴らしさを再認識するものばかりです。中盤の雪の降る東京下町のシーンは、静の中の動を綺麗に映し出しています。

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 しかし、冒頭にもあるようにCGを用いるところなど、押井監督のイノセンス、立喰立志伝に通ずるところもあり興味深いものがあります。

 

Ⅴ.総評

 テロリストである「柘植行人」は、読み方に直すと「ツゲユクヒト」、つまり「告げ行く人」であり、日本の防衛管理の無さ危機管理の無さを正に「告げ」る人であります。そして、それを「告げ」ているのは劇中の日本だけではなく、現実の私たちが住まう日本に関しても告げているのではないでしょうか。

 この映画の後、アメリカでは9.11同時多発テロが発生しました。アメリカと日本と場所は違えど、劇中と同じように都市部におけるテロリズムの発生という点では同じものです。9.11発生当時も議論されましたが、果たしてこれが日本で発生した場合防ぐことが出来たのでしょうか。アメリカはこの事件以降テロの撲滅を掲げ、国内外で対テロ政策を強めています。

 しかしながら、それに比べ日本の対テロ政策は遅れているといわざるを得ません。先日もドローンが首相官邸内に侵入し、墜落しているのが発見されましたが、これがもし悪意を持った侵入であれば、日本の中枢部は瞬く間にダウンしてしまうでしょう。

 技術の進歩は日進月歩のようなものであり、特に近年では個人で所有できる電子機械が増加した結果、技術が先行して対処に関して遅れがちな側面があります。勿論何事も法規制をすればいい、という意味ではありませんが、事が起こってから対処するようでは遅いのです。

 本作品では、そうしたテロへの対処が後手後手へ回った際の恐怖を描いています。欧米各国でテロが多発する中、既に日本もその範疇外というわけではありません。特に、安保法案が改正され集団的自衛権を行使す側になったということは、我々は少なくともアメリカ的価値観、NATO的価値観で世界の紛争状況を解決していくというスタンスに立ったわけであり、当然反アメリカ的価値観を持つイスラム過激派からは敵対しされるという認識を持つべきなのです。

 今まで享受してきた平和が、今後どうなるか分からない岐路に我々は立っているのかもしれません。本作品で、荒川がこう問いかけています。

 後藤さん。警察官として、自衛官として、俺たちが守ろうとしてるものってのはなんだろうな。
 前の戦争から半世紀、俺もあんたも生まれてこの方、戦争なんてものは経験せずに生きてきた。平和…、俺たちが守るべき平和。
 だがこの国のこの街の平和とはなんだ。かつての総力戦とその敗北、米軍の占領政策、ついこの間まで続いていた核抑止とその代理戦争。そして今も世界の大半で繰り返されている内戦。民族衝突、武力紛争。
 そういった無数の戦争によって合成され支えられてきた、血まみれの経済的繁栄。それが俺たちの平和の中身だ。
 戦争への恐怖に基づくなりふりかまわぬ平和。正当な代価を、よその国の戦争で支払い、そのことから目をそらし続ける不正義の平和。

 まさにこれが我々が今迄享受してきた平和です。そして、安保法案改正にて今後捨て去ろうとしている平和です。

 今後の日本を考えるにあたり、見てない方は一度、見られた方はもう一度ご覧になっては如何でしょうか。

 

 以上、「機動警察パトレイバー2」のご紹介でした。